こだわりはたくさん。
しかし、業者の対応は、重く。

とはいえ、今回は以前と違い、住まいを全面改装するフルリノベーションです。間取りを一から見直し、できるだけ妥協せずに自分たちの生活にフィットする空間を作るのは、決して簡単なことではありません。
リノベーション会社選びは、おもにご主人が奔走。インターネットでめぼしい会社をリストアップして、さらに何社かに絞り込んで相談に足を運びました。ところが、道のりは順調ではありませんでした。リノベーションの相談に訪れ、森野さんご夫婦が次々と要望を伝えていくうちに、リノベーション会社の対応は徐々に“重たく”なっていったといいます。
「私たちは、ああしたい、こうしたいと率直な要望をいろいろ言うわけですよ。それに対して、リノベーション会社さんは1回はプランを出してくれたとしても、2回、3回となると、“これ以上は手付け金をいただかないと話ができません”となるんですね」
理想の住まいづくりに向けてとことんこだわりたいと思っていた森野さんには、そうした対応が納得いかなかったようです。
「そんな中で唯一、私たちの度重なる要望に耳をかたむけてくれて、柔軟なプランを出してくれたのがセキスイのマルリノさんでした。私たちが思いを伝えると、プランナーさんが、“それならこうしてみたらどうでしょう”とプランを提案してくれる。これはありがたかったです」
リビングを削って、優先したのは
子供の表情が見えること。
「いちばんの要望は『子供の部屋を作りたい』ということ。それから『子供部屋の位置を、リビング横に置いてほしい』と伝えました。子供が自分の部屋に入るのに、リビングを通っていくような間取りにしてほしい、と」。通常のマンションでは、リビングを広く取ることを優先しがちですが、その理由を聞くと、
「男の子って、10才頃からそろそろ思春期で、いろいろ難しいんですね。最近は私と顔を合わせようともしないし、こちらから話しかけても『別に・・・』しか言わない(笑)。それはもう仕方がないので、あんまり干渉しないようにしようと思っているけど、毎日の生活の中で、最低でも顔を見る機会だけはしっかり持っておく必要があると思ったんです。部屋があると子供はそこに閉じこもってしまうことが多くなるけど、子供部屋がリビングの横にあれば、必ず家族の横を通り抜けていくでしょう。顔を見てれば、何を考えてるかだいたいわかるから、あとは部屋の中で何をしててもいいという考え方でした」
普通のリノベーションのようにリビングダイニングを広く取り、子供部屋はプライバシーを優先する、といった間取りでは、学校から帰ってきたお子様が誰とも顔を合わせないまま部屋に直行してしまう。
奥様が望んだのは、子供に干渉しないまでも「必ず顔だけは見ることができる家」「子供の変化に気が付ける家」でした。
リノベーションのきっかけとなった子供部屋は、最初のプランではもうひと回り小さな空間だったようですが、これからの成長を考えてサイズアップをリクエスト。隣り合うキッチンスペースを切りつめて、子供部屋の広さを優先しました。子供部屋の室内は静かで、さらりと居心地がいいのは、リノベーション時に施した断熱の効果によるものでしょうか。近くには幹線道路が走っているにもかかわらず、騒音がほとんど聞こえません。また夏場や冬でも自然な室温が保たれ、エアコンを使用することはあまりないようです。
さらに勉強机から目線を上に上げると、天井にほど近い所に、光と風を取り入れる小窓がひとつ。この小窓を通じてリビングでの会話が聞こえてきます。ご飯時になればお母さんの作る料理のいい匂いも漂ってきそう。
そう、この小窓は、親と子の言葉によらないコミュニケーションを可能にするちょっとしたアイデア。何かと親の目を逃れて過ごしたい年頃のお子様も、このさりげないつながりを喜んでいるといいます。
森野さんは「子供が部屋にこもる時は、何か悪いことをする時」と笑いますが、その部屋はきれいに整頓され、お子様がこの空間をとても大切にしていることが伝わってきます。

ウォークスルークローゼットの
マルチな便利さ。
家族思いのアイデアは他にも見られます。ご夫婦の寝室とリビングダイニングの間に設えたウォークスルークローゼットも、そのひとつ。森野さんの住まいでは、ウォークスルークローゼットと寝室との間にドアを設置しなかったため、寝室、ウォークスルークローゼット、リビングへと一直線に行き来ができるようになっています。しかもウォークスルークローゼットの中には広い窓があり、クローゼット独特の暗さや閉塞感がありません。そして、このウォークスルークローゼットは、玄関からリビングをつなぐ廊下とは別の、二つめの家族の動線になっています。
「この動線ができたことで生活がものすごく便利になりました。例えば朝の出勤・登校時は全員が家じゅうをバタバタ動き回るんですね。私(奥様)も仕事をしているので、三人が同時に行ったり来たりするとぶつかってお互いが邪魔になる。ところがリノベーション後は動線が2つになったので、すれ違うことが少なくなって行き来がラクになりました。家族の行動パターンにもフィットしていて、パジャマに着替えたらそのまま洗濯機に持っていったり、顔を洗ったらその足ですぐ朝ご飯を食べにいったりと、動きがとても自然になりました」
「それから風通しもよくなりましたね。リビングと寝室の窓を同時に開けると、このウォークスルークローゼットを通って風がわっと通る。家中の空気が一気に入れ替わる感じですね。クローゼットに空気がこもらないのもありがたいです」
思い切り遊んだ父と息子が通り抜ける、もうひとつの動線。