ギャラリーが出迎える家。

リノベーションされた斉木さん邸を初めて訪れる人々は、一歩玄関ホールに足を踏み入れた瞬間にまず言葉を失う。そして小さく歓声をあげる。「まあ!」「わお!」「すごーい!」。マンションにある玄関だとは想像もつかない程の圧倒的な空間で人々を迎え入れる。
まず驚くべきは、なんといっても玄関ホールの広さだ。ラクに6 畳はあろうかという広々とした空間。そしてこれだけの広さにもかかわらず、目に入るものといえば、ひっそりと置かれた趣のあるガーデンチェアが一脚と、正面の壁に掛けられた一対のフォトアートだけ。いたってシンプル。玄関に敷き詰められたタイルは上質感をもって光り輝くホワイトマーブル。そして、白一色に仕上げられた壁が、足元の間接照明に照らされて空間全体を柔らかく見せている。日常の生活を感じさせないこの空間は、「暮らす」というよりも、この空間で「過ごす」と感じさせる空間なのだ。例えるならば、まさに「ギャラリー」。額装された、正面の小さなフォトアートが静かに、やさしくゲストを迎えてくれる。憧れとゆとりに満ちた雰囲気、そして落ち着いた大人の遊び心を感じさせる小粋なもてなしは、訪れる人々の気持ちをリセットしてくれる、優雅な空間だ。
暮らしに一所懸命の時代には
見えなかった「不便さ」。
斉木さんご夫婦は、ともに60代でご夫婦ともにお勤め。このマンションに引っ越して20年余りになる。以前は横浜駅近くに暮らしていたが、都会特有の空気の悪さもあって、当時小学生だった長男が喘息を患った。空気のきれいな土地を求めて、海に近い金沢区の現在のマンションに移り住んだ。移り住んだマンションは、築10年、8階建ての最上階。3LDKの間取りに、家族4人の新たな暮らしがスタートした。
「はじめは、ちょっと狭いかなと思いながらも、家族4人でこれまで暮らしてきたよ」
「子どもたちを育てるのと、夫婦ともに仕事で精一杯だったから、住まいに不満を感じるヒマもなかったね!」と言いながらも、これまでを振り返ると、「やっぱり不便なところはあったのかもしれないね!」とご主人は笑う。
20数年にわたって家族の暮らしを見守ったマンションは、築30年を迎えている。新築当時のマンションを取り巻く住環境性能は、決して充分なものではなかった。“憧れの我が家”を手に入れることが優先されている時代に購入されたのだった。暮らし始めて分かる事も多い。最上階ゆえに夏は暑く、冬は寒い。すべての部屋で、エアコンをフル稼働しなければ過ごせなかった。夏場、家を半日留守にすると部屋に熱気がこもっていて、帰宅後、エアコンをつけてもがなかなか温度が下がらない。それならばと、窓を開け放して出掛けることもしばしばだったが、海に近いマンションの8階は、風を遮るものもなく、折からの急な雨が強い風とともに室内に吹き込んで、部屋中がびしょ濡れになった苦い思い出もある。

突然起こった水漏れ。
斉木さんご夫婦が60歳を迎える頃、ふたりの子どもたちが相次いで独立した。ご主人の仕事も、落ち着いた仕事環境に身を置けるようになった。自宅で過ごせる時間も長くなった斉木さんご夫婦の中に、モヤモヤと「新しいこれからの住まい」への思いが募っていったのもこの頃だ。
子どもたちが巣立ち、夫婦ふたりになってみると、かつての子ども部屋など使われない部屋が生まれる。使われなくなった部屋を収納にすることも考えたが、結局は、不要な物ばかりを押し込むことになるのが目にみえる。家族の思い出も大切だが、過去の間取りに縛られて、新しい暮らしへの一歩を踏み出せないでいることに気づいた斉木さんは、だんだんとリフォームか買換えかを悩み始めるようになっていった。
そして、きっかけは、ある日突然起きた。
お風呂の給水管からの水漏れ・・・。漏れ出した水で、階下にお住まいの方に迷惑をかけてしまったのだ。設備の老朽化は目に見えないところで確実に進行していた。
カゲもカタチもないほどに。